2月20日、SHIPで「FuJI」最後の講義が開催されました。テーマは「星を救う起業家」で、JEPLAN会長の岩元美智彦氏が講師を務めました。
岩元氏が事業で扱うのは、環境問題。ゴミを減らし、使ったものを再利用して新たな資源として活用する「循環型社会」の実現を目指し、環境と経済の両立に挑戦してきました。また、環境問題をより身近に感じてもらうために、企業だけでなく消費者を巻き込んださまざまなり組を行っています。その象徴的なプロジェクトの一つが、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するゴミを燃料として走るタイムマシン「デロリアン」を現実のものにした挑戦です。この取組は大きな話題を呼び、環境問題への関心を広げるきっかけとなりました。
事業を推進するには、資金を集めることだけでなく、反対意見に直面しながらも行動を続ける推進力が必要です。起業家はどのような心構えを持つべきか。岩元氏は自身の経験をもとに、そのポイントを高校生にもわかりやすく解説しました。
講師紹介
岩元 美智彦
JEPLAN, INC. 代表取締役会長
1964年鹿児島県生まれ。2007年1月、日本環境設計(現JEPLAN)を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。
マインド講義「星を救う起業家」での学び
事業を進めるには「知恵」が重要
岩元氏は、どのような事業をするにせよ、最終的には「知恵」が最も重要だと強調しました。「お金がないから事業ができない」と考える人は多いものです。しかし、事業が進まない理由は資金不足ではなく、創意工夫が足りないケースが往々にしてあります。岩元氏も資金が潤沢にあったわけではなく、多くの課題に直面しました。しかし、岩元氏は「資金は有限ですが、知恵は無限」と考え、乗り越えながら事業を推進。企業や消費者を巻き込みながら資源循環の仕組みを作り、事業を成長させることに成功したのです。仲間と知恵を出し合い、それを乗り越えていくのがベンチャーの醍醐味であり、面白さでもあると語りました。
自分が信じた道を進む
岩元氏は創業時、「経済と環境と平和」の両立を目標として掲げたものの、「経済活動と環境保護は対立する」との固定観念から「無理だ」と多くの批判を浴びました。しかし、岩元氏は「地上資源(リサイクル資源)」の活用によって、環境を守りながら経済を成長させることができると信じ、挑戦を継続。この行動の原動力となったのは「循環のトライアングル」という考え方でした。技術、消費者の参加、経済と環境の共存の3つの柱が理想の実現につながると信じ、突き進んできました。
また、自身の事業の進め方を、おもちゃの「こま」にたとえました。こまは、軸(技術力)を持ち、周囲を巻き込む回転力(巻き込み力)があるからこそ、安定して回転します。事業も同様で、技術を軸にしながら周囲を巻き込むことで成長していくのだと強調しました。
資源をめぐる争いをなくし、平和にしたい
ペットボトルや洋服、スマートフォンなどは、生活に欠かせません。しかし、これらの多くは石油・金・レアメタルといった「地下資源」から作られています。
岩元氏は「資源をめぐる争いが戦争を生むことが多い」と説明。現に、石油や金、ダイヤモンドをめぐる争いは世界中で起きています。地下資源ではなく、使い終わったものをリサイクルして「地上資源」として活用できれば、資源を奪い合う必要がなくなります。環境を守ることは、平和を守ることにもつながると強調しました。地上資源として再利用するための技術を開発し、あらゆるものが再利用できることを示し、「地球にはゴミが存在しない」ことを技術的に証明しています。世界平和を目的とするオリンピックの場でも応用されました。2021年に開催された東京オリンピックでは、地上資源を活用してメダルを作り、話題を集めました。
消費者がイベントに参加し、リサイクルの大切を体感する
リサイクルの大切さを説いても、活動を広めるには企業だけでなく、消費者の協力も必要です。岩元氏は「リサイクルを楽しいものにすることが大事」と語り、実際に成功した事例として、マクドナルドのハッピーセットのおもちゃリサイクルを紹介しました。子どもたちが使い終わったおもちゃを店舗に持ち込み、リサイクルに参加できる仕組みを導入。開始当初は約300人の参加でしたが、10年で370万人にまで広がり、環境意識の向上にもつながりました。 リサイクルの流れを「買う→使う→捨てる」から「買う→使う→リサイクル→再び買う」という行動変容へとシフトさせることを目指しました。この取組が評価され、世界のSDGs大賞を受賞しました。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とデロリアンプロジェクト
岩元氏は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するデロリアンを実際にゴミで走らせるプロジェクトを実施しました。作中で、未来の車がゴミを燃料にして走るシーンに着想を得て、「これを現実にできるのでは?」と考えたことがきっかけです。会社でデロリアンを購入し、ゴミを燃料に変える技術を開発。「地上資源を活用した循環型社会の実現」「戦争やテロの根本的な解決」「子どもたちの笑顔を取り戻す」という3つのテーマを掲げ、ハリウッドに提携を提案しました。
同プロジェクトはSNSで話題となり、世界中で注目を集めました。さらに、リサイクル活動に参加した人がデロリアンに乗れる仕組みを作り、多くの人が楽しみながら環境問題を学ぶ機会を提供しました。構想を社内で話したとき、「無理だ」と反対されたものの、2年かけて説得をしたエピソードも話しました。
質疑応答
講義の最後には、質疑応答の時間が設けられました。起業の心構えや資金調達、環境問題の広め方など、高校生たちからは具体的な質問が多く寄せられました。
質問:
「周りの人を巻き込むベストな方法があれば教えてください」
回答:
最初から人を巻き込もうとせず、まずは自分の「軸」をしっかりと持ちましょう。軸がしっかりしていると、それを支える「受け皿」(仕組み)が自然にできあがり、結果として人が集まってきます。活動を広めていきたいなら、やり尽くしましょう。数回の失敗で諦めず、何度も試行錯誤をすることが大切です。続けていくうちに突破すべき壁が見え、その壁を超えたとき、協力者や支援が自然と集まります。
質問:
世界を巻き込んで活動される中で、幅広い人脈を築かれていると思います。その人間関係を維持し、さらに広げるために、意識していることは何ですか?
回答:
素晴らしい質問ですね。人とのつながりを広げるためには、本音で話せる場を作りましょう。大企業の会議室では意見が出づらいですが、リラックスした場では本音が出やすい。大人であれば、酒席が役立ちます。また、肩書きではなく気が合うかどうかが重要です。気持ちのよい関係を築ける人と付き合うことで、自然と良いアイデアが生まれます。私自身、多くの社長と交流がありますが、結局は相性が大切だと感じます。
質問:
環境問題のような難しいテーマと「ワクワク」といった楽しさを結びつける際に大切にしていることを教えてください。
回答:
異業種の視点を取り入れることで、リサイクル業界の発信がより立体的になり、事業の幅が広がると感じています。特に、社会課題や文化の視点を加えることで新たな可能性が生まれました。また、ブランド要素やエンタメを掛け合わせることで、より多くの人の関心を引くことができます。事業には「超えるべき壁」があり、その壁を乗り越えたとき、初めて世界から注目されます。しかし、壁を超える前は何をしてもうまくいかないと感じることが多いのも事実です。そのため、事業を形にするには、地道な努力を積み重ねることが不可欠です。
まとめ
FuJI最終講義では、世界的に著名な起業家である岩元氏から、起業家に求められる心構えを学びました。反対意見に直面しても挑戦を続ける推進力、明確なビジョンを示して賛同者や資金を集める手法、周囲を巻き込む力は、高校生にとって貴重な学びとなったはずです。また「環境と経済の両立は可能である」という視点を得ることで、自分たちにできることを考えるきっかけにもなりました。
高校生たちは、スタートアップキャンプ、スタートアップツアー、全10回のマインド・スキル講義やメンタリングといった約7ヶ月間の活動を通じて多くのことを学び、事業アイデアを磨いてきました。3月20日に開催される成果報告会(最終ピッチ大会)では、それぞれのチームが自分たちの考えを言葉にのせ、共感を生み出すプレゼンテーションに挑戦します!