2025年1月9日、SHIPで「FuJI」6回目の講義が開催されました。テーマは「ユーザー体験のデザイン・プロトタイプ」。講師を務めたのは、株式会社RePlayceの柴田亜由美氏です。7か月にわたるプログラムは、いよいよ終盤戦。3月の最終プレゼンテーションを控え、事業立案において重要なプロセスである「プロトタイプ」を中心に学びました。
柴田氏は、プロトタイプを「単なる試作品ではなく、アイデアを具体化し仮説検証する手段」と説明。講義では座学に加え、高校生たちが実際にプロトタイプを作成し、頭に浮かんだアイデアを形にする体験をしました。また、プロトタイプで得た仮説検証の結果を活かし、マーケティング戦略や市場分析に繋げる具体的なステップも紹介されました。
講師紹介
柴田亜由美氏
株式会社RePlayce プロジェクトマネージャー
新卒入社の綜合警備保障株式会社では法人・個人営業を経験。その後、パーソルキャリア株式会社へ転職し、IT領域のエージェントとして採用支援に従事。2021年にNTTドコモスマートライフ事業のキャリア採用担当として入社し300名規模の採用を行った。また、翌年社内大学ドコモアカデミーに入学し不妊治療の新規事業検討、はたらく部へ参画し営業やコーチとして活動。はたらく部の事業へ共感し2024年にRePlayceにJoin。自治体や学校、法人企業向けの営業やデリバリー計画の策定と実行を行っている。また学校向けに授業の実施、はたらく部の中学生コーチとしても活動。
スキル講義「ユーザー体験のデザイン・プロトタイプ」での学び
プロトタイプでビジネスアイデアを形にする
プロトタイプは、アイデアを形にし、試してみる方法です。頭の中にあるビジネスアイデアを具体化し、実現可能性や改善点を見つけるための重要なステップです。
たとえば、有名なおもちゃ「ワニワニパニック」の初期段階のプロトタイプは段ボールで作られていました。本格的な製品を試作の段階で作るのはコストがかかりますが、段ボールなら低コストで簡単に作れ、商品化に必要な改善点を見つけやすくなります。このように、プロトタイプは試行錯誤を繰り返しながら完成度を高めるための手段として欠かせません。
講義では、高校生がプロトタイプの重要性を理解しやすくするために、文化祭で「わたあめ屋」を出店するケースが取り上げられました。プロトタイプは「準備」と言い換えられます。もし練習をせず文化祭当日を迎えれば、わたあめの形が整わない、作るのに時間がかかるといった事態に陥り、来店者が不満を抱きかねません。結果として、売り上げは上がりません。しかし、事前にわたあめ作りの練習を繰り返しておけば、スムーズに作れるようになり、「ジャンボレインボーわたあめ」のような独自性のある商品を生み出せるかもしれません。
プロトタイプを経ることで、アイデアをより良い形にブラッシュアップできるだけでなく、顧客が何を求めているかを深く考え、それに応える方法を具体的に見つけることができます。また、成功につながる具体的なステップを一つひとつ踏む中で、自信や行動力が自然と身につくのも大きなメリットです。
プロトタイプ作成がもたらすメリット
プロトタイプの作成には、仮説検証以外にも多くのメリットがあります。柴田氏は、特に重要な4つのポイントを挙げました。
1:ユーザーのフィードバックを直接収集しやすい
プロトタイプを活用することで、ユーザーから具体的な意見や改善点を得ることができます。たとえば、スマホアプリのプロトタイプを試してもらうと、「このボタンが分かりにくい」「ここを押したらどこに進むのか分からない」といった意見が挙がります。初期段階で問題点を発見し、改善に役立てることが可能です。
2:チーム内での共通認識を取りやすい
プロトタイプは、チーム内におけるイメージの共有をスムーズにする手段としても有効です。プロジェクトではメンバー間で考え方やイメージが異なることがありますが、プロトタイプを作成することで「自分はこう考えていたが、他の人はこう思っていた」という違いを発見できます。その結果、チーム全体で方向性を統一し、効率的にプロジェクトを進められます。
3:実現可能性を確認できる
ビジネスアイデアを形にしてみることで、その事業が本当に実現可能かどうかを早めに判断できます。たとえば、新しい技術やデザインを使おうとする場合、その技術が実際に使えるか、法的に問題がないかを確認できます。これによって、実現が難しいことに無駄な時間やお金をかけるリスクを減らせます。
4:アイデアのブラッシュアップにつながる
プロトタイプは、アイデアを磨き上げる重要な手段です。作成することで、「ここを改良した方がいい」「こうした方がもっと良くなる」といった新たな発見が得られます。こうして、より完成度の高い商品やサービスに近づけることができます。
プロトタイプには4つの種類がある
これらのメリットを最大限に活かすためには、目的に応じたプロトタイプを選ぶことが重要です。プロトタイプには主に4つの種類があります。
1:ペーパープロトタイプ
紙とペンを使ってアイデアを描き出す方法です。コストをかけずに、手軽に試せるのが特徴です。たとえば、アプリの画面を紙に描くことで、操作の流れや使い方をイメージしやすくなります。また、初期段階における事業検討やチーム内での共有にも役立ちます。
2:コンシェルジュプロトタイプ
「コンシェルジュ」とは、顧客に合わせて対応する案内役のこと。このプロトタイプでは、サービスをまず手作業で試し、ユーザーのニーズを観察します。たとえば、ニュース記事を自動配信するサービスの場合、最初は手動で記事を送ることで、ユーザーの反応を確認し、システムを作るべきか判断します。
3:コンビネーションプロトタイプ
既存のサービスを組み合わせて新しいアイデアを試作する方法です。たとえば、LINEやZoomを使ってオンライン英会話を試作することで、低コストで現実的な検証が可能になります。
4:ランディングページ(LP)プロトタイプ
製品やサービスを紹介するWebページを作り、反応を測定してアイデアへの関心度を評価します。特にWeb関連のプロジェクトで効果的です。
ワーク:実際にプロトタイプを作ってみよう
参加した高校生たちは、「自分たちの事業にまつわるアプリのプロトタイプを作る」というワークに取り組みました。ワークではプロトタイプの中の「モックアップ」にチャレンジ。モックアップとは、画面を本物そっくりに再現する方法で、見た目やデザインを見て確認することが目的です。考えたアプリは動きませんが、アイデアを具体的にイメージしやすくなります。
ワークは3つのステップで進行しました。まず、ステップ1ではアプリのアイデアを構想。高校生たちは、ターゲットや解決したい課題を整理し、アプリが提供する体験を明確化しました。紙にアイデアを書き出すことで、思考を整理しやすくなり、考えを深めることができました。
次にステップ2では、ラフ案を作成しました。紙やタブレットを使って画面構成やボタン配置をスケッチしながら、デザインや機能性を検討しました。ターゲットにとって使いやすい画面を意識して作業が進められました。
最後のステップ3では、オンラインデジタルツール「Canva」を活用し、具体的なモックアップを作成しました。テンプレートや素材を活用しながら一つの画面を完成させ、ラフ案をもとにアイデアを形にしました。進捗状況はZoomやLINEで共有され、フィードバックを受けながら改善が繰り返されました。
ワークの発表
ワークの発表では、オンラインとオフラインの参加者がそれぞれの制作成果を発表しました。
最初の発表では、高校生や大学生が高齢者を訪問するサービスのホームページデザインが提案されました。文字を大きくし、ボタンを押しやすくするなど、高齢者の使いやすさを追求した設計が特徴です。また、文字サイズのカスタマイズ機能やロボット案内を追加し、視覚的な工夫が評価されました。
続いて、パフォーマーがイベント情報を簡単に検索できるアプリ画面のデザインが発表されました。インスタグラムのストーリー形式を取り入れるなど、利用者が興味を持ちやすい工夫が凝らされています。さらに、イベント運営者がパフォーマーを直接募集できる機能も搭載され、柔軟な使い方が可能です。
他にも、高校生と企業をマッチングするアプリや、産業医シェアリングサービスの画面デザインが発表されました。それぞれのプロジェクトは、短期間ながらも独創的なアイデアと実現可能性を重視した内容で、参加者や講師から高く評価されました。
サービスを顧客に届ける上でマーケティングも重要
講義の最後には、商品やサービスを届けるために「どんなお客さんがいるのか」を考えることの重要性が説明されました。具体的には、「世の中にどれくらいのお客さんがいるのか」「その中で自分たちが関われる人はどのくらいか」「実際に商品を買ってくれる人は誰か」を順に考えることで、行動の指針を得られるといいます。また、成功例として、マクドナルドやライザップの事例が紹介されました。マクドナルドは「手軽に安く食べられる」という点で多くの人に利用されており、一方でライザップは「結果にこだわる」という独自の価値を提供して成功していることが強調されました。
まとめ
今回の講義では、プロトタイプの基本とその活用法を中心に、実践的な学びが行われました。高校生たちは紙やデジタルツールを使ってモックアップを作成し、ビジネスの仮説を検証しながら改善を重ねるプロセスを体験しました。講師や他の参加者の反応によって「もっと良いものにしたい」と意欲的に取り組む姿が印象的でした。3月の最終プレゼンテーションに向けて、残りの講義を通じてビジネスプランをさらに練り上げていきます。