FuJIプログラムは3回目に突入!10月10日、SHIPで行われた講義のテーマは「未来思考でイノベーションを生み出せ」でした。講師はスタートアップ支援のエキスパートであり、「起業家の参謀」としても名高い田所雅之氏。田所氏の講義は、起業に必要なマインドセットにとどまらず、豊富なビジネス経験を交え、実際の事業立ち上げにまで及びました。起業に必要な「スキル」に焦点を当てた初の講義とあって、参加した高校生たちは、真剣な表情で田所氏の話に耳を傾けました。
講師紹介
田所 雅之 氏
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO / 関西学院大学経営戦略研究科 客員教授
これまで日本で4社、シリコンバレーで1社起業をした連続起業家。2017年発売以降115週連続でAmazon経営書売上1位になった『起業の科学 スタートアップサイエンス』及び『御社の新規事業はなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学』『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』の著者。2014年から2017年までシリコンバレーのVCのパートナーとしてグローバルの投資を行う。現在は、スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援するユニコーンファームのCEO及びブルーマーリンパートナーズの社外取締役を務める。年間の講演回数は160回(2019年実績)、新規事業アドバイス/メンタリングは600回(2019年実績)。内閣府タスクフォース(価値デザイン社会審議会)メンバー、経産省主催STS(シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援)の協議会メンバー、経産省主催TCP(ベンチャー支援プログラム)のメンター/審査員などを歴任。
スキル講義「未来思考でイノベーションを生み出せ」での学び
AIとの関係。人間ができることに集中する
田所氏は、AIと人間の役割の違いについて詳しく解説しました。AIは、既存の仕組みを効率よく動かし、データを整理したり、繰り返し作業を正確に処理することが得意です。言わば、「100を110にする力」に優れています。しかし、AIはゼロから新しいアイデアを生み出す「01」(ゼロイチ)は不得意だと指摘しました。「アイデアを生み出す力」は人間にしかできないことだと田所氏は強調しました。
たとえば、AIを使えばリサーチ作業や反復的な業務はスムーズに進みますが、未来に向けたビジョンや、人の感情に寄り添う発想は、人間だからこそ発揮できる能力です。講義では「人間は無駄なことができる」と表現し、一見すると「無駄に見える時間やこと」から新しい発見や価値が生まれるのだと田所氏は主張しました。人間を動かせるのは、人間だけ、ということです。
顧客理解が最も大切
講義では、顧客理解に多くの時間を使って説明しました。なぜなら、事業を作るために顧客理解は欠かせないからです。田所氏は、顧客心理をどれだけの解像度で捉え、さらにどれだけ言語化できるかが重要であると強調します。どのようにして顧客との関係を深めるのか、次のような手法を紹介しました。
- 対話(直接話を聞く)
- アンケート(生の声)
- 入念なリサーチ(統計)
- インタビュー/ヒアリング
- 統計
- ペルソナを作る
- 自分も体験する
- 関係なさそうなことでも深掘りしていく
顧客の考えと行動を把握する
新たな事業を起こす際、起業家に求められるのが、「顧客が何を考え、どう行動するかを把握すること」です。それを知る方法として、田所氏は自身が開発した「モチベーショングラフ」を紹介しました。このグラフは、特定のシーンを設定し、そのシーンで顧客が感じるポジティブな感情とネガティブな感情を、線の傾きで表現するものです。なぜそのような感情の変化が起こったかの理由を書き加えることで、顧客の考えと行動が掴めるわけです。講義では実際に世に出回っている人気商品を取り上げ、モチベーショングラフに書いて説明しました。
顧客の感情が動く要因を掴む
ポジティブかネガティブかを問わず、顧客の感情が動くには必ず理由があります。この理由を「ドライバー」と呼びます。ドライバーには、経済的な要因(エコノミックドライバー)と、感覚や心理的な要因(ノンエコノミックドライバー)の2つがあります。これらの要因を把握することで、顧客が何を考え、何を感じているかをより深く理解できます。田所氏は、「2つのドライバーの違いをしっかりと理解することが重要」と強調しました。
エコノミックドライバーとは、「お金や時間に関係する効果」のこと。たとえば、コストを減らしたり、利益を増やしたり、時間を節約できることが該当します。製品の性能や機能がどれだけ役立つかも経済的な効果に入ります。
一方、ノンエコノミックドライバーは、物の質感や機能がどんな感覚を生むかを指します。たとえば見た目や触り心地、聞こえ方などが含まれます。また、商品名やパッケージ、広告などが人にどう感じられるかが該当します。
インタビューで気を付ける4つのポイント
講義の後半には質疑応答があり、参加者から「インタビューのやり方」についての質問が寄せられました。インタビューは有効な顧客理解の手法の一つですが、ユーザーから単に話を聞けばよいわけではありません。顧客が何に困り、どうしたら課題が解決するのかを知るには、聞き方が重要だと強調しました。
田所氏は、顧客へインタビューをする際に気を付けるポイントを4つ紹介しました。
ポイント1:"未来"ではなく"今"に注目する
現在起きている行動が、明日を想定する最も良いヒントである。人は将来の判断や想定は、たいてい間違う。
ポイント2:"抽象的"でなく"具体的"な質問をする
「どのくらいの頻度で」よりも「過去一ヶ月に実際に何回起きましたか」、「この製品が出たらいくらまで出せますか」よりも「現在この課題の解決にいくらくらい払っていますか」など、具体的な質問のほうがインサイト(顧客の深層心理)を引き出せる。
ポイント3:"結果"ではなく"プロセス"に関して質問する
結果がどうなったかを聞くのではなく、その過程をステップバイステップのストーリーで語ってもらうことで、課題の背景や文脈をつかむことができる。
ポイント4:"解決策"ではなく"課題"について質問する
自分が作っているプロダクトの機能について話すことは避けて、顧客の持つ課題にフォーカスする。
反対に、すべきでない質問として「なぜ◯◯しないのか?」を挙げました。自分の行動を否定されたように感じてしまうためです。
適正な価格を決めるためにすること
「値付けをどうすればいいのか?」の問いには、田所氏は価格感度分析(PSM分析)を紹介。どのように価格を決めればよいかについて、丁寧に説明しました。PSM分析とは、「高いと思う」「安いと思う」「高すぎて買えない」「安すぎて買わない」の4つの価格を求め、価格に対する消費者の感度を分析する方法を指します。
田所氏は、これら4つの価格をもとに折れ線グラフを作り、「高すぎて買えない」と「安すぎて買わない」の2つの線が交わる点が「理想的な価格」だと説明しました。難しく聞こえるかもしれませんが、実際には「これ以上高いと買わないと思う価格はいくらですか?」のようなシンプルな質問をして、それをグラフにするだけです。田所氏は「簡単にできます」と付け加え、この方法を勧めていました。
グループワーク
グループワークでは、「最近、週末に遊びに行った時の出来事」「最近、旅行に行った時のこと」「最近、新しいアプリやゲームをやった時の体験」の3つのテーマで各グループが議論しました。講義で教わったモチベーショングラフを実際に書く練習もしました。
スタートアップキャンプや前回の講義を通じて、高校生たちの間には強い仲間意識が芽生え、話し合いは円滑に進みました。各グループのメンバーは積極的に意見を出し合い、会場は活気にあふれていました。
まとめ
田所氏の講義「未来思考でイノベーションを生み出せ」では、AIと人間の役割の違いや、顧客理解の重要性を学びました。顧客の考えや行動に関して、身近な商品がどのような分析を経て世に出たのかを知り、ユーザーの立場に立って物事を考え、課題を言語化することの大切さを理解したようでした。
高校生たちは、今回学んだスキルを活用しながら、それぞれの事業確立に向けて引き続き顧客理解に取り組んでいきます!